旅と鉄道の美学

鉄道を中心とした国内外の旅と切符など。リンクフリーです。

【切符系】 〔常備券〕〔準常備券〕〔補充券〕の違い。

 この表現は営業規則にもありますので、(年配の?)鉄道関係者には良く知られた言い方です。印刷されている度合いに着目した違いですね。

 

  (1) 常備券

  前の記事に挙げた急行券のように、まさに印刷されており、「常備」されていることを示します。今のマルスや券売機のように都度、印刷するタイプとは正反対のものですね。せっかくなので、ちょっと珍しめの1枚を挙げておきます。

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 発行駅は新宿で、中央線で行って、飯田線に乗って、東海道線で帰ってくるルートです。まだ東海道新幹線ができる前のものです。東京都区内から東京都区内というだけでもレアですが、更に飯田線を経由するなどというルートにどれほど需要があったのだろうかと、首をかしげます。○学は学割ということです。もし、この当時に私が学生なら、実家に帰るのに確実に購入していたであろう乗車券ですね。おそらく毎シーズン同じ窓口で購入して、券番をみて売れ行きをチェックしていたと思います。

 券面に薄く「赤穂」(「あこう」ではなく、「あかほ」と読む。)の途中下車印が見えますが、この翌月に駒ヶ根に駅名が変更されていますので、これを使用した方は、このあたりも狙って行ったのではないでしょうか。ほぼ鉄ヲタが使ったとみてよさそうです。

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 ちなみに逆回りです。どちらも学割になっていますが、こんな悠長な旅をするのは学生ぐらいでしょうね。

 

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 いまは硬券より軟券タイプの常備券が主流といえるでしょう。自動改札機に硬券をいれると、つまりやすいのでこのような形になってきました。印刷コストの削減などもあるでしょうね。

 

 さらに、普通の大人の乗車券とは別に割引対応の物が常備される事例もあります。

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 このように学割が良く出る区間には学割専用の常備券が置かれていました。周遊券の方は高校生のときに自分で使ったものです。飯田線の新城や豊川にはこれとおなじ周遊券が常備されていましたが、大人用しかなかったので、豊橋駅でわざわざ購入し学割専用券を入手していました。しかも豊橋駅は特定の窓口でないとマルスでの発券になってしまうため、ちょっとコツが必要でした。

 

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 こちらは小児専用の常備券です。今年の夏はこの駅も休業だそうですね。

 

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 これは国鉄職員割引の専用券です。子供と同じで半額になりました。
 

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 こちらは身体障害者割引専用の乗車券です。通常は特別補充券などで発行するので、設備があること自体がなかなか珍しいです。

 

 なお、常備券の中で一般的にプレミアがつくのが、特急券などにある完全常備券です。特急券は列車名や発車時刻、区間などを書き込む形態が多かったのですが、需要のあるところには、日付と席番以外すべてが印刷されている完全常備券が存在しました。

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  さらに、国鉄の物よりJRの物にプレミアが付きます。昭和64年の硬貨と同じですよね。短期間しか発売されてないので、希少性が高いのです。その中でも、列車の本数が少ないとか、乗降客の少ない駅であるとか、グリーン券やA寝台券などの席数の少ないといった特殊な事情が加わると更にプレミアが付きます。 

 

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 こちらは回数券の完全常備券バージョンです。需要のある区間には日付だけいれて販売する物も多くみられました。

 

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 マルスや券売機が幅を利かせていますが、ICカードが使えない地方だと、イベントなどで逆に常備券が登場する場合もあります。これは熊野花火で発売される乗車券です。別にマニア向けに売っているわけではありません。同じ区間に大量の客が乗車するので、マルスや券売機、車内補充券発行器などでは手間がかかって追いつかないからです。この日の熊野市周辺の駅では、周辺の駅員総出でこの乗車券を売りまくります。

 諏訪湖花火も同様に常備券が発行されます。

 

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 最近購入したフリーきっぷです。これはJR四国・阿佐海岸鉄道・高知東部交通(バス)・土佐くろしお鉄道に乗れるものです。もちろんJR四国で購入すると、マルス券になるのですが、阿佐海岸鉄道土佐くろしお鉄道で購入するとこういった乗車券になります。これもれっきとした常備券ですね。昔は、JRも乗れる乗車券の場合は、私鉄であってもJRっぽいデザイン(いかにも「乗車券」って感じ。)が多かったのですが、だいぶくだけた雰囲気になっています。テーマパークのチケットみたいです。

 個人的にはお堅い鉄道のイメージが踏襲されておらず少し残念です。

 

 さて、最近の地方の私鉄では常備券自体をアピールしているところも増えています。


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 これは水島臨海鉄道倉敷市駅の例です。

 以前は一般向けに記念乗車券の販売戦略をとっている地方私鉄が多かったのですが、最近は券売機やICばかりになったことから、普通に売っている(以前は)普通であった手売りの乗車券が価値をもってきたということですね。こんなポスターがあると、観光客でもちょっと買ってみようかという気分になりますね。

 

 

  (2) 準常備券

 常備券になりきっていないということですね。物を見てもらった方が早いでしょう。 

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 こちらは今でも売っている大井川鐵道の準常備券です。着駅で切断するので、長さがかわり、「準」常備券ということです。 ちなみに、この乗車券は半分はマニア向けに売っているようです。改札口の横に「準常備券はいかがですか?」とかアピールされていました。まるで「ついでにポテトもいかがですか?」のように。さすが大鉄!

 しかも最下段で切断するには2090円を払わなければなりません。で、やはり汚さずに残したいので、使わないとw。㎝の紙切れに2000円を払ってしまう自分がいるわけですwww。

 

 ちなみに切断した片方(断片)は、駅に残り、納金と一緒に本社なりに送ることにまります。収入が少ない場合は、その分、断片が長くないといけないということです。なかなか合理的にできています。

 

 もうひとつ極めつけの珍券です。 

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  普通、準常備券というと、着駅で切断するのですが、これは発駅で切断するタイプです。御代田のこの券はJRになってもしばらく存在したようです。他に、金沢駅、宇久井駅(紀勢本線)にありました。

 用途は予測になりますが、御代田以外から乗車する予定の客が、あらかじめ御代田駅特急券などとセットで購入しにきた場合だと思います。御代田駅の近くに住んでいるけど、東京に行くときは小諸駅まで家族に車で送ってもらうとか。あるいは、御代田に停まらない特急で、小諸から乗る場合などでしょう。 

 

 準常備券は料金券にもありました。

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 これは硬券急行券・指定席券をもとめてわざわざ枇杷島駅まで行って購入したものです。当時はネットなどはありませんから、鉄道本にわずかに載っていたキップの画像から枇杷島を探りだし、訪ねました。

 駅員さんに「名古屋駅に行ったらすぐに出せるのに・・・ぶつぶつ」とか言われながら作ってもらいました。国鉄が終わる1日前です。

 最高額で購入しているので、一番長いところで切断しています。

 結果としては、ガラガラすぎて指定券を購入する意味など全くありませんでした。該当の指定席車両には私と祖父が乗っているだけで、もう一つのボックスは乗務する専務車掌がポットを置いたりして休憩室がわりにつかっていました。いまなら、乗客用の席でサボる車掌発見!とかネットに写真がアップされると思います。
  

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 軟券タイプの準常備券です。「○遊」とあるので、周遊券に付属で発行されている料金券でしょう。

 

www.estoppel.jp

 

 

 (3) 補充券

 いろいろ記入して完成させることが前提とされているので、補充券というわけですね。 

 

  ① 補充片道乗車券

 いちばんオーソドックスなタイプです。いまでも関東圏だと、JR用は分倍河原や厚木などの社線管理駅で発行されていると思います。

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 これが典型的なスタイルです。国鉄時代はもう少し小さかったです。

 

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 肥薩おれんじなどのように私鉄では少し小さめの物があります。

 

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 国鉄時代は硬券タイプの片道補充券もありましたが、平成まで残っていたのは、南海と名鉄ぐらいだとおもいます。

 

 ② 補充往復乗車券

 

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 往復乗車券が大きくなって、必要事項を書き込めるようになっているものです。

 

 ③ 補充連続乗車券 

 簡単いうと、片道でもなく往復でもないけど、片道が連続している経路で発売される乗車券です。通常、2連続までです。

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 このように発駅・折返駅・着駅をそれぞれ記入して、連続1と連続2の2枚を作成する形となっています。連続乗車券とは何ぞや?と思った方は下記へ。 

 硬券タイプの連続乗車券(表裏)です。昭和50年代まで国鉄に存在しました。

 

 

 

 ④ 特別補充券(通称「とっぽ」)

 特別補充券というのは国鉄・JRの名称です。いちばん万能のキップで、ほとんどの種類を作成することができます。いまのJRではあまり発行することはないので、駅員さんは苦手としている方が多いですね。

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 入場券で発行された事例は下記へ。 

 

 ⑤ 特殊補充券(通称「とっぽ」)

  昔の国鉄(昭和40年代まで)といまの私鉄での名称です。役割は上の特別補充券と同じです。 

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 これは昭和40年代までの国鉄のタイプです。JRには引き継がれず、国鉄時代にこのタイプはなくなっています。

 

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 一部の私鉄では上と同じタイプが残っています。伊予鉄道などでもあったと思います。平成なのに「等級」の欄が残っているというのが面白いですね。どれだけ売れないのかが分かります。 

 

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 こちらは現在の私鉄の主流となっているタイプです。日本のほとんどの私鉄がこのタイプです。機械化が進んでいる鉄道ですと、機械が故障した時などにしか発売しない場合が多いようです。

 発行するとしても、大手私鉄では主任以上(あるいは駅掌以上)が取り扱えるルールになっていることが多いようです。間違えるリスクが高いので、熟練者に取り扱わせるということですね。

 

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 最近ではレーザープリンタータイプも存在します。

 

 ⑥ 料金専用補充券(通称「りょうほ」)

 運賃ではなく、急行券、寝台券などの料金券の用途に限った補充券です。

 こちらは国鉄です。天王寺鉄道管理局タイプですね。こちらも指定券を購入するほどではありませんでした。

 

 

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 こちらはJRの標準形式です。マルスは設置コストがかかるので、田舎の有人駅ではこのような料補が結構あります。

 

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 現在も、一部の私鉄で存在します。伊勢鉄道のほか、土佐くろしお鉄道智頭急行、京都丹後鉄道などのJR連絡特急が存在する私鉄でみることができます。のと鉄道やちほく高原鉄道でもかつてあったと思います。


 

 ⑦ 車内補充券

 ※記事が長くなるので、別稿とします。